彼女は今、眠っている。腰のマッサージをしている途中で寝てしまったのだ。それにしてもひどい寝相。よく寝れるなぁ、っていつも思う。漢字に表すと“方”という文字。仰向け、ただし、腰がひねられ、足が左右入れ替わっている。ストレッチかヨガのポーズのよう。おまけに首をのけ反らせ、大口を開けている。ここに、肩こりと腰痛をもたらす原因の一端を垣間見ることができる。そんな格好をして、どんな夢を見ているんだろう。僕は、考えてみるともなく考えてみた。だけど僕には分からなかった。まぁ、当然の話だ。
初めて彼女と話したのは英語のクラスで。「何か書くもの、貸して頂けませんか?」と、横に座っていた彼女は遠慮がちなか細い声で言った。授業初日なのに、と僕は思った。そして、綺麗な子だな、とも思った。おまけに、申し訳なさそうな、恥ずかしそうな、そんな微妙な笑顔付き。こちらも、消しゴムのおまけを付けずにはいられなかった。当然の話だった。
初めてキスしたのはバーのテーブルで。2人とも酔っていたけど、意識ははっきりとしていたし、キスすることは、なんだかすごく自然なことのように思えた。実際、僕らはすごく自然に唇を重ね合って、そして、くすくす笑い合った。恥ずかしくて笑ったのか、それとも酔っていて笑ったのか。まぁ、なんにせよ、すごく良かった。それだって、当然の話だった。
好きで、好きで、好きだったから。だから、「好きだよ」って何度も言った。「好きだよ」って言ってほしかったから。今思えば、それはまだ恋だったんだ。僕は不安だったんだ。今なら分かる。今の僕らなら分かる。
彼女はまだ、“方”の字をえがいて、ぐっすりすやすや眠っている。「好きだよ」って言ってみた。「好きだよ」とは聞こえてこなかった。まぁ、当然の話だ。だけど、良かった。僕は知っているから。聞かなくったって分かるから。と、不意に、彼女が笑った。楽しい夢でも見ているのだろう。幸せそうで何よりだ。僕も笑った。
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